「近江商人の経営理念」

先日、「人を大切にする経営学会 第10回全国大会」に参加してきました。
これまで第1回大会から参加してきましたが、今回強く感じたことが2つありました。
1つは、坂本光司先生の「人を大切にする経営」の大切さに賛同する経営者がコロナ禍にも関わらず大幅に増大したこと。
2つ目は、起業家精神をもった逞しい若い女性たちも増えたことです。
一方でビッグモーターやそれに結託する損害保険会社の悪徳経営者たちも後を絶ちません。
そこで、経営者たちに原点に立ち返ってほしいという思いから、「「近江商人の経営理念」の一端をご紹介します。

【三方よし】
◆商いをする人たちが、近江商人と聞いてすぐに思い浮かべるのがこの「三方よし」という言葉でしょう。
「三方よし」とは、「売り手よし・買い手よし・世間よし」ということです。
良心的な経営者ならば「売り手よし・買い手よし」を心がけると思います。しかし、近江商人を近江商人たらしめているのが、3つ目の「世間よし」なのです。
「三方よし」は、近年CSR(Corporate social responsibility: 起業の社会的責任)の原点として注目されている言葉ですが、近江商人たちの基本的な考え方です。
この言葉は江戸時代からあったのではなく、近江商人研究者の元滋賀大学教授・小倉栄一郎氏が1980年代頃から使い始めたと言われています。
◆「三方よし」の語源は、近江商人で麻布商の二代目中村治兵衛宗岸が70歳になった1754年に、15歳の養嗣子の宗次郎(四代目治兵衛)にあてた書置きの中の一節です。
この直筆の遺言書である「書置」は主文11条と追書13条の合計24条もの長文であり、冒頭の言葉は主文の中の第8条にあります。

その第8条を口語で要約すると、「他国へ行商するにあたっては自分の事ばかり考えず、その国の人々の事を大切にせよ。私利をむさぼってはいけない。神仏の事は常に忘れないようにせよ」ということになります。「三方よし」とは、まさに言いえて妙ですよね。
◆冒頭にご紹介した「人を大切にする経営学会」の会員の経営者の方々は、「三方よし」どころか坂本光司先生の提唱なさっている「五方よし」の経営で、地域に根差して活躍なさっています。

【近江商人「商売の心得十訓」】
◆出典元は『近江商人の末裔 奥村酒造株式会社HP』とされているようですが、定かではありません。時間がある時に調べてみたいと思います。どの心得も明確で解説の必要はありませんね。
1.商売は世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり
2.店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何
3.売る前のお世辞よりも売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる
4.資金の少なきを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし
5.無理に売るな、客の好むものを売るな、客の為になるものを売れ
6.良きものを売るは善なり、良き品を広告して多く売ることはさらに善なり
7.紙一枚でも景品はお客を喜ばせる つけてあげるもののないとき笑顔を景品にせよ
8.正札を守れ、値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ
9.今日の損益を常に考えよ 今日の損益を明らかにしないでは、寝につかぬ習慣にせよ
10.商売には好況、不況はない、いずれにしても儲けねばならぬ
※実際には好況不況の波はあるものですが、それを言い訳にせずに知恵と努力を惜しむなといったところでしょうか。確かに世間が苦しい時にもアイデアを出し、工夫して成果を出す起用は存在しますね。

【近江商人(日野商人)『慎み十ヶ条』】
◆これは「日野さんぽ」の中で、記者が歴史民俗資料館「日野商人館」の館長から差し出された資料(日野商人の経営理念「慎み十ヶ条」)に書かれていたそうです。
しかし、六項目しか紹介されていなかったため、調べたところ十項目以上になりました。
これについても時間のある時に確認してみたいと思います。

一、一獲千金をねらうな
一、まず、謙虚な人間となれ
一、商品はお客様へ贈る真心である
一、慢心するな。原点を大切に
一、長年の信用や技術を基に発展させよ
一、部下のやる気を起こす工夫をせよ
一、社会奉仕の実践を ※
一、お陰様での心を持て ※
一、とにかく誠実であれ※
一、品質は店の命である ※
一、悪徳業者になるな。薄利多売の精神を ※
一、もめ事を起こす商いをするな ※
一、部下への気遣いを忘れるな ※

◆ご感想はいかがですか。経営者たちが近江商人の経営理念「三方よし」「「商売の心得十訓」「日野商人の『慎み十ヶ条』」を実践していれば、日本経済の「失われた30年」はなかったのかもしれませんね。でも、これからでも遅くはありません。近江商人の経営理念を心に刻んで経営してほしいものです。