「コロナ対策:和歌山モデル」

ここのところ感染者数が減少傾向にありますが、医療現場はまだまだひっ迫していて、2回目の緊急事態宣言延長は当分続きそうです。 そんな中、大阪モデル、神奈川方式、練馬区モデルなど、各自治体でいろいろな試みがなされています。
数ある自治体の取り組みの中でも、私が一番関心を抱いたのが「和歌山モデル」でした。
あのワシントン・ポスト紙に「日本のある自治体が、この世界的なパンデミックとの闘いに挑み、勝利した。それは和歌山モデルと呼ばれている」と紹介された感染対策モデルです。
NHKスペシャル「パンデミック激動の世界(7)~問われるリーダーたちの決断」の中でも詳細に取り上げられていますので、今回は「和歌山モデル」についてご紹介します。

【和歌山モデルとは】
◆人口91万人の和歌山県。 緊急事態宣言の対象になっている大阪府に隣接しています。 知事は仁坂吉伸氏。その仁坂知事の決断が問われたのは去年の2月でした。 地域の中核病院で医師や患者が相次いで感染し、全国で初めて病院クラスターが発生したのです。
当時、国は都道府県に対してPCR検査について通知を出していました。そこには「37.5度以上の発熱ある場合や感染の流行が確認された地域への渡航歴がある人」などと記されていたのです。 しかし、仁坂知事はこの通知に捉われない決断をしたのです。 新型コロナに関する情報が限られる中、通知に添った対応だけでは感染の拡大は抑えられない恐れがあると考えた仁坂知事。 感染者と接触した医師や看護師だけでなく、出入り業者や地域住民など、短期間で700人近くにPCR検査を実施したのです。 感染者の早期発見と徹底した隔離によって、抑え込みに成功。 わずか3週間で病院を再開させることができたのです。

【和歌山モデルが成功した要因】
◆和歌山県が感染拡大の封じ込みに成功した主な要因は次の3つです。
①国からの通知に捉われず、県独自の対策を講じたこと。
②現場(保健所)との強い信頼関係があったこと。
➂保健所を重視したこと。
それでは、それぞれの要因について簡単に説明しましょう。

①【県独自の対策】
◆1990年代地方分権改革が行われ、1999年地方分権一括法が成立しました。
それ以来、国から都道府県への通知・通達は法的な拘束力はなくなり、原則として国からの助言に止まることになりました。 また、感染症法が定める国の役割がウイルス研究など総合的な対策であるのに対して、都道府県の役割は感染状況の把握など地域の感染封じ込めです。 当時、仁坂知事が国からの通知に捉われず、県独自の対策を講じました。 中央官庁出身で県知事を4期務める経験からその決断の拠り所としたのが、この感染症法だったのです。

②【現場(保健所)との強い信頼関係】
◆和歌山県のコロナ対策の実務を任されているのが、医師の資格を持つ野尻孝子技監です。 野尻さんは、地域の実態を最もよく知る自治体が責任をもって対策に当たることが大切だと考えています。ですから、県内の感染状況を徹底的に分析して、対策を検討しています。 当時も濃厚接触を追跡する国の基準が2日前までに遡って追跡するとしていましたが、野尻さんたちはクラスターの感染状況【】を詳細に分析した結果、3日前までに遡って追跡するという和歌山県独自の基準を作ったのです。 仁坂知事は、野尻さんたち現場のデータ分析を信頼し、その分析結果を基にして対策に当たりました。 このように、現場との強い信頼関係があって感染の封じ込めに成功したのです。

➂【保健所を重視】
◆和歌山県が独自の基準で感染経路を追える背景には、感染症を担う保健所を重視してきた経緯があります。
国は平成に入り、行政改革の一環で保健所の役割を見直し、集約する方針を打ち出しました。 全国の保健所はこの30年間で半数近くに減少しました。 現在、首都圏で感染者の追跡が難しくなっているのは、保健所の数が半減したからです。そのため、地域の感染を封じ込めるという保健所本来の役割が果たせなくなってしまったのです。 神奈川方式は、まさに保健所本来の役割を一部放棄せざるを得なくなった結果なのです。 神奈川だけでなく、全国の多くの自治体で同じような状況が起きても不思議ではありません。
しかし、和歌山県では危機が起きた時に備え、保健所の体制を維持することが重要だと考えてきました。 野尻さんは「健康危機管理の観点からすると、保健所の削減はするべきでなく、やはり保健所の神髄のところを守れる体制にすべきだ」と強い信念でやってきたと言います。 そこで、和歌山県では8つある保健所のうち1つは削減することになりましたが、支所という形にして機能を維持することに決めたのです。 そして、クラスターが発生した時に、この保健所の機能を見事に発揮して感染拡大の封じ込めに成功したのです。

◆ご感想はいかがでしたか。 和歌山県の仁坂知事は次のように言っています。
「地方分権一括法があるのですから、自治体はいつまでも国からの指示待ちで仕事をするのではなく、自分の責任で仕事をやりなさいということです。 国は国の決められた仕事を責任をもってやる。 地方は地方で、都道府県も市町村もそれぞれに決められた仕事を責任をやる。 つまり、人のせいにしてはいけませんということです」と。
まさにそのとおりだと思いませんか。 リーダーだけでなく、一人一人がそれぞれの立場で自分の仕事を人のせいにせずに責任を持って行えば、この国はもっと良くなるのではないでしょうか。 日本はまだまだ伸びしろがあるということですよね。